くすし三徹物語(十二所)

=真澄記=

秋田県の北、十二所というところに蝦夷が森があり、その森の奥に祠がある。 

これは、その祠の主「千葉総之介」の物語である。 


慶安・承応の昔、千葉総之介という侍がここに住んでいた。 

千葉総之介は、常に清き身の振るまいで、心頼もしく、人に恵みを与える竹のような性格であった。 

彼はくすしとなって、「くすし三徹」と言われていた。 


そして彼は、いつも一つ歯の高下駄をはき、夏冬問わず大滝温泉に来て、日ごとに浴して帰るのが習慣であった。

天正の昔の物語である。

ある秋、この辺一帯は飢饉にあい、世の人はいたく難渋して、涙を流した年があった。

水無月(旧暦6月)のある日、三徹が大滝の村に来ると、鳴り物入りで年貢を馬に乗せ、十二所まで運ぶ行列に出会った。 

三徹は行列に声を荒げて言った。 

「殿の仰せである。止まれ!止まれ!」と荷駄を止めさせた。そして、三徹はその米を貧しい人に与えた。 


後に三徹は、「罪は我一人にあり」と言って名乗り出た。三徹は囚人となり、やがて討たれた。 

いまわの際に、「私が死んだならば、身は蝦夷が森に埋めよ。」と言ったそうだ。 

村人は三徹を葬り、塚を作ったが、荒ぶる神となって祟ったため、そこに社を建てて三徹の御霊を祀ったと言う。 


今でも病になった人が山に登って祈ると、必ずしるしがあると言う。水無月十七日は三徹が身まかった日として、多くの人が詣でるそうだ。


真澄が描いた大滝温泉

真澄:三徹が住んだ蝦夷が森

大滝温泉神社



<地元の三哲物語>