願生坊物語 (大滝温泉)

=真澄記= 

昔願生坊という法師がここにあった。この願生、姥ケ嶽の山深く入って木をひたすら切っていた。 

あやしく思った丈高の男が六七人来て、「御坊は何のために木を切っているか?」と訊ねる。願生が答えて「我はささやかな庵を建てた。しかし村のために寺を作って行く末の栄えを願いたいのだ。」 


これを聞いた男どもは、「我らも力になって木を切り、御仏に奉らん。」と七たび八たび木を切った。宮木を切る音は四方の谷にこだまして、百あまりの人が住む山里にも響いていった。 

村人は「山鳴りだ。」と怪しんだが、ことの成り行きを聞くと、里人も手に手に斧を持って集まり、木を伐った。 

伐った木は谷に投げ落としておいたが、大雨が降ると沢水が増えて犀川に流れ出た。「人や馬・牛の力も借りず、必要な宮木が流れてくる。」と願生も人々も喜んだ。 

その木ははみな赤檜(がび)と言って、どれも大きな臼にもなるもので、火に掛けて「焼き細り」とし、匠の手で慶長二年の年には立派な寺が建った。