=真澄記=
(貝取り)
古城の跡を右手に中橋という川をたよりに小舟を出した。
妙見島、稲荷島に人が行くのを入道島のかげから見ていると、岸で男女がしじみ・黒貝・うば貝などを拾っている。
(鳥海山)
舟はまと島・けんかい島をめぐって能因島へ向かう。
鳥海山の姿は3月末から4月にかけての山のように、鹿の子斑(かのこまだら:鹿の斑点の状態)の雪に、一筋の雲がたなびいている。
横たわっている山を「大ひら」と言って、昔の古道があったところだ。
(象潟ふとん)
藻を刈っている船がある。これは流れ藻を採って干し、馬の背にかけて寒さしのぎに使ったり、外での風除けに使ったりする。名を「象潟ふとん」と言う。
(舟音頭)
鍋粥島・兵庫島に行くと、葦の穂に鳥の尾羽を混ぜて編んだ笠をかぶって、蓑の袖をかかげて小さい舟で「おそさおそさとふた声み声」と歌っている。ふな音頭という歌だそうだ。
(島々の鳥)
からす島・椎島・まがくし、会津島で玉藻を刈り取っていた。
雪を避けるように松の間に鷺がいたが、舟が近づくとみな飛び立ってしまった。
ししわたり・つづき島などは、糸引きを渡したような島だ。
大島・夫婦(めおと)島はよく松が茂ったものだ。
いくつかの島の中で「おやしま」と言われているのは苗代島、ひらしま・ならしま・弁天島・蛭子島など、ここらの島影には鵜の口ばしを揃えて羽を広げて岩の上に居並んでいる。
(磯辺の神々)
鷹島・天神島・大森などを見て、大平の端の梢にあるのは田の神の社だ。守夜神を祀ると言う。
潟の陸地付近は田や畑になっていて、秋は五穀を刈る。
小舟がたくさん出ている。小さい島がたくさんある。鴨が沢山おって、小舟が近づくと潮が踊るかと思うような羽音で飛び立つ。
大潮越に見えるのはこしかけ八幡の社、冬木立の中に白い幡(はた)がひるがえっているのは白山の神を祀り奉う御社だ。
蚶満寺の西に舟をつけて降りた。