神明社の花見(湯沢)

<湯沢の花見模様>=真澄記= 

十日、屋のあるじ(山田某)、「今日花見に行こう、山を見に行こう」と言う。桜は今日が盛りで、中(中旬)は過ぎてしまうだろうと出かけることにした。 


神のおわす玉垣(湯沢神明社と思われる)に入ると、境内はきれいに掃き清められていて、宮代も祭られていた。 

境内では男たちが集まって、つつみを打ち、三味線を遊んでいる。 

中に顔見知りの男がいて手招きをしている。入ると酒を勧められ、くき(うぐい)、鱒の切り身を楢(なら)の若葉に盛って飲んでいる。やけに楽しそうだ。 


やがて女七人ほど隅から寄ってきて、ここはゆっくり話そうと、盃をとらせて酒を勧める。人々の顔は青葉さす夏山の紅葉といえる。夕日が更に(彼らの顔に)照りを添えている。 

若い女が顔をそむけながら、「蛙なく野中の清水、、」と歌い出せば、男女みな声に続いて歌いはじめた。

あらぬ様に帽子をとって、鼓を鳴らすと、八十・七十になろう老女が腰を伸ばして頭(こうべ)を振って、手をたたいて踊りだす。 


眠いふりをして、外に出た。遠くを眺めれば、高山の頂にまだ雪が残っている。近い里の家の梅(毎)の花は散り残っている。若葉の梢は風に涼しくて、遠近の眺めが本当にいい。 


女が一人外に出てきた。「朝の出掛けに山を見れば、霧のかからない山はない」と言う。霧ではなく、もやだろう。雪のある山は霧のように見えるものだ。 

広く横たわっているのは皆瀬川、はるかな山は松岡かなどと遊山し、夕方になって帰った。

前森公園の桜

前森公園の桜

前森公園の桜