逗留の家

真澄は西馬音内(にしもない)で本格的な冬を迎えている。逗留した家の号はわからないが、板葺き屋根が朽ち果てた貧しい家であったようだ。しかし中は大家族で、真澄を暖かく迎えてくれた。 

そんな中に真澄は人々の冬の暮らしぶりや、方言などに目と耳を傾けていた。


ここでは、逗留先の家の様子を真澄が次のように書いている。 


=真澄記= 

笹たいまつ 

日暮れより風が吹いてきて、雨が降ってきた。板葺きの朽ちた屋根が暴れている。雨漏りがひどく、座っているところもない。 

襖を移して蓑を着て体を覆っていた。笹のたいまつ(松のヤニを竹の葉に巻いて作ったともし火)をともして、(いろりの)埋もれ火に近づくと、風はますます強くなった。 

外に出てみると、近所の家からも人が出てきていて「この風じゃー」と声がする。 

あるじの老女は蓑をはおっている自分の姿を見て、「足の具も笠もつけなさい」と笑う。 

夜明けにやっと枕についた。