瓜と草鞋(わらじ)(胆沢)

=真澄記=

その昔、ひたすら紙を敬い・祀り、父母を大切にして一生懸命、露のいとまもなく田耕す男がいた。

また近隣に、ひたすら経を読み、仏を尊び、仏に仕える男がいた。

 

さて、この二人は出会う毎の言い争いの止むときがない。ある年この二人、また言い争いをして「されば今年稲田を作って、その稔りで勝負しよう。」ということになった。

 

親孝行の男は、その日より履いた草鞋を脱ぐこともなく、鋤鍬(すきくわ)を持って耕したため、稲は高く稔り八重穂にしなって家は富栄えた。

 

一方、仏に使える男は、田も作らずひたすら経を読み、香を炊き、花を捧げて仏に仕えた。

秋、その男の田には夕顔がひしひしと生え、その蔓(つる)だけがのび這い回った。やがて花がしろしろと咲いて大きな瓜がなった。

男はこれを見て、「これは仏からの賜りものである。これを食べて命永らえよう。」と瓜を割ると、中から米が溢れてきた。

 

人々は皆、「神も仏も志さえまめならば守ってくれるものだ。」と悟り、男らは言い争いを止めて仲良く暮らしたという。