真澄のだんびる長者物語(鹿角)

小豆沢の上、田山の庄の平間田本というところに男女が住んでいた。 

あるひ、男女が耕作の間に鍬を枕に昼寝をしていた。 


男の鼻からささやかなトンボが出て飛んでいき、羽を濡らして帰ってきた。妻の一緒に寝ていたが、これを見て驚き、男を起こした。 

男が起き上がり、「面白い夢を見た」と旨い酒を飲んだ話を妻に語った。 

「それはどこだろう」と山を分け入り、苔の生えた石から湧く泉を見つけた。香り高く、それは酒だった。 

「これはうれしい」と泉のほとりに家を建てて、それからというもの、風が吹き付けるように家は栄えた。 


やがて、この話が帝(天皇)に聞こえた。帝は「子供はいるか?」との仰せに、「東人でござる。美しい女子がおる。」と答えたところ、宮中にお召しになられた。 


里人はトンボを「だんびる」と言う。皆は「だんびる長者」と言い、沢山の人が訪れてこの水で米を洗った。水は白く流れて、行水の水も真っ白になったと言う。 


これが米白川の所以である。この川は鹿の角のように振り分けて流れることから鹿角の庄と言い、郡は狭布(けふ)といったが、もっぱら鹿角の郡と言い習わしている。 


この長者が死んで、寺を建てるべしとの勅命により、養老年間であったため、寺の名を「養老山喜徳寺」と言う。